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「牧場探訪~愛知 都市近郊における地域循環型酪農を訪ねる~」

持続可能な活動を学ぶため愛知県西三河の酪農場を視察
 ウクライナ戦争、地球温暖化、歴史的な円安などを背景に、飼料や化学肥料、エネギーなどの価格が高騰する中で、酪農場における耕畜連携や食品残さ(エコフィード)の再利用による飼料の地域内自給、堆肥の地域内循環などへの工夫が、多くの地域で積極的に進められています。
 ミルク1万年の会では、こうした持続可能な生産を目指す酪農場の取り組みを学ぶために、11月18日(土)に、愛知県西三河地域の酪農場(西尾市・小笠原牧場、刈谷市・清水牧場)を訪ねました。(写真は、清水牧場での集合写真)
 10時に豊橋駅西口に集合し、中型の貸切バスで西尾市の小笠原牧場に向かい、昼食時間を含め2時間程度滞在、その後に刈谷市の清水牧場を訪問し、17時過ぎに豊橋市に帰るコースでした。当日は、あいにく風の強い寒い1日でしたが、ほぼスケジュール通りで参加者は無事に豊橋駅で解散しました。



全国から多彩な顔ぶれが参加、バスの中で愛知の酪農を事前勉強
 小笠原牧場に到着するバスの中で参加者の自己紹介。キャンセル待ちの方が出るなど多くの応募がある中、24名(定員)の方が、中四国地方、近畿圏、首都圏、そして地元の愛知県などから参加されました。顔ぶれも、酪農乳業団体、乳業メーカーや農業資材メーカーの社員、大学の研究者、ジャーナリストなど多彩で、ほぼ半数がミルク1万年の会の活動には初めての参加でした。
 今回のイベントにコーディネータとして協力してくれた豊橋市在住の高橋慶さん(環境テキシス社長・エコフィードを畜産農家に販売・ミルク1万年の会の会員)から、愛知県酪農の概要を説明。特に愛知県は、全国有数の近郊型農業地帯で、水稲と水田裏作の大豆、キャベツなどの都市近郊野菜が栽培されていること、三河湾に面し近くに全国有数の貿易港があり、輸入の飼料穀物や牧草が廉価に入手できることから、畜産における自給飼料生産があまり行われてこなかったこと。一方、最近の飼料価格高騰の影響で愛知県内の酪農家の生産コストが2割程度上昇(生産コストに占める飼料の比率が4割から6割に上昇)しており、このことで、愛知県内の酪農経営は厳しい状況であるなどを説明いただきました。

小笠原牧場でエコフィードの利用や地域社会との連携を学ぶ
 1軒目の酪農場は西尾市花蔵寺町の小笠原牧場。経営主の小笠原正秀さん、奥様の和美さん、後継者として就農したばかりの娘さん夫婦の家族全員で迎えていただきました。小笠原正秀さんは農家としては7代目、酪農主としては2代目です。
 この酪農場は、搾乳牛が260頭で西三河では一番大きな牧場です。飼料の自給率を高くすることが経済変化の影響をあまり受けない持続可能な酪農につながるという正秀さんの強い信念で、以前から、地元食品企業の様々なエコフィードを積極的に利用、また、飼料米(籾米サイレージ)4ヘクタール、飼料稲(イネサイレージ)14ヘクタールを近隣の水田農家で委託生産し、自らも5ヘクタールの飼料生産(水田転作)をされています。
 参加者は、牧場の中を回りながら、小笠原正秀さんから、経営の現状や牧場の特徴などを丁寧に説明していただきました。
 特に、エコフィードの利用については、これまで廃棄物処理のコストを使って処分されてきた多様な食品廃棄物を、乳牛の栄養生理、保存方法、年間を通した適切な栄養の組み合わせ、牛乳の美味しさなどに配慮して、飼料化されてきました。今では、地元の食品業者との幅広いネットワークが生まれ、地域における食品リサイクルシステムのコアとして牧場が重要な役割を果たしています。



 また、夏は猛暑となる愛知県で病気などのリスクの少ない酪農を行うために、乳牛は子牛の時から牧場で飼育されていますが、効率的で病気にならない子牛の育成のために、哺乳ロボットなどの最新の技術も早期に導入され、健康な乳牛が育てられています。さらに、地域の住民や子ども達に、生き物の命の仕組みを生かしながらミルクを生産するという酪農の意義や仕事を理解してもらうために、酪農教育ファームや乳製品加工販売(合同会社「酪」)を実施されています。



 約1時間程度、牧場を見学したのちに、牧場の集会所で、小笠原さんご家族全員と参加者が一緒に昼食をとりながら1時間程度のディスカッションを行うことができました。参加者からは幅広い質問が出され、大変充実した時間が過ごせました。合同会社「酪」で作られたジェラード、牧場から原料乳を供給している近隣のチーズ工房のチーズも出していただき、美味しくて楽しい時間になりました。



清水牧場で若い経営主から次世代酪農の姿や教育ファーム活動を学ぶ
 2軒目の牧場は刈谷市小恒江町の清水牧場です。牧場を案内いただいたのは、2021年に経営を継承した若い3代目経営主の清水一将さん。昨年、規模を拡大するために最新の牛舎や設備を導入され、現在の搾乳牛は160頭、まだ増えていくそうです。小笠原牧場と同じように、夏の暑さに耐えられる乳牛を生産するために、自分の牧場で子牛から乳牛を育てられています。
 清水牧場でも、飼料の自給率を高める取り組みを最近開始され、現在は、水田農家に飼料稲(イネサイレージ)、デントコーン(サイレージ)を生産委託しています。購入飼料の場合、飼料の品質が悪ければ飼料会社にクレームを出してそのリスクは酪農家が持つ必要はないが、これまで飼料生産の経験がない地域の水田農家に飼料を生産してもらう場合、水田農家が飼料の生産技術を徐々に習得していくしかないので、飼料は全て買い取っているということでした。水田農家と酪農家の地域内連携による飼料生産はまだまだ課題が多いが、これを地道に前進させ完成した仕組みにすることが必要という、将来を見据え、とても地に着いたお考えだと思いました。



 清水牧場には雇用の従業員(家族以外)が4人いますが、休日は月に7日と多く、なるべく残業がないようにしているということでした。優秀な人材を安定的に雇用するためには、まずは休日を民間企業並みに確保しそれぞれの従業員が自分の生活を優先できることが最も重要だということ。従業員の入れ替わりが激しく海外の農業実習制度で辛うじて雇用労働を確保している酪農場が多い中、安定した日本人の雇用を実現している珍しい事例だそうです。
 なお、清水牧場では、お母さんのほずみさんが、24年前から近隣の小学校と連携して、牧場で子ども達の体験学習を行ったり小学校に子牛を貸し出したりする酪農教育ファーム活動を実施され、その活動も一将さんが継承しています。牧場にいると、近所の子ども達が良く乳牛を見に来るそうです。当日も小学校の先生が訪問されていましたので、お母さんのほずみさんと小学校の先生からお話を聞くことができました。地域社会と強く連携し地域に支えられることが、清水牧場の持続可能な経営につながっているという印象を受けました。



時代とともに変化する愛知の酪農
 今回訪問した小笠原牧場や清水牧場の近辺は、「日本のデンマーク」と称され、大変生産性の高い都市近郊農業地帯です。戦前や戦後に、稲作や畑作の肥料分を安く入手する手段として、家畜の飼育が奨励されました。しかし、稲作や野菜作が優先され、飼料生産は後回しにされてきました。その一方で、安い輸入飼料が入手できる有利な環境があり、こうしたことから、輸入飼料を安価に入手して1頭当たりのミルクの生産量を増やし、乳牛は北海道などから導入して頭数も増やしてきました。
 現在の飼料価格高騰などによる厳しい酪農環境の中、いかにして、飼料生産用の農地が少ない愛知県の酪農家にとって、どのようにして経営を持続可能なものに発展させていくのか、課題は深刻ですが、それでも、酪農への情熱とさまざまな工夫、そして水田農家、食品会社など、地域社会との連携の中で、これを乗り越えようと頑張っている酪農家の姿に触れることができました。
 小笠原牧場の皆さん、清水牧場の皆さん、貴重なお時間を頂戴し大変ありがとうございました。また、お手伝にこられていた愛知県酪農協、株式会社明治・西日本酪農グループの皆さん、そしてコーディネーター役を務めていただきました高橋さん、お世話になりました。

(文責・吉村・永田・前田)