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ミルク1万年の会 2024交流会~私が考える酪農とミルクの未来~

地域産業と共に目指す循環型農業への道筋
酪農家 小笠原正秀さん(愛知県西尾市)

「優しい」3つのキーワードと3つのオンリーワン
 私の会社は平成13年に設立し、従業員は、正社員が6名、実習生が4名で、中には20年以上勤めている従業員も2名人います。経営規模は、経産牛で400頭、年間出荷乳量が3,100トン、年商4億円ぐらいです。
 牧場の経営方針と経営理念についてお話しします。まず、「牛と人に優しい会社を目指します。」「地域と地球に優しい会社を目指します。」「未来に優しい会社を目指します。」という三つの「優しい」をキーワードにおいています。
経営として目指すべき方向が3つあります。
 1つ目は、オンリーワンの牧場を目指すこと。従業員や海外の研修生、農業研修生など様々な方々、インターンシップを受け入れ、酪農教育ファームもその一環で実施しました。酪農教育ファームとは認証を受け、ほとんどボランティアで自己責任で実施しています。小学1年生に乳搾り体験で牛乳に触ってもらうと、「牛乳ってあったかいんだ!。」とまじまじと言うんですね。子どもたちとって牛乳は、冷蔵庫に入っている冷たい飲み物。だから、他の飲み物と横並び、冷蔵庫の中でコーラがあって、何か他の飲み物があって、その中の牛乳で横並びだということがわかりました。これはいかんということで、「直接この温かみを伝えるのは、乳業メーカーではない我々だ!」とつくづく思ったんです。ですから、これはボランティアだけども、必ずこれが将来に繋がる、将来の酪農に繋がるのだと、子ども達にまず知ってもらうこと。これが一番大事じゃないかなと思って継続しています。
 2つ目に、乳牛の改良でオンリーワンになることです。5年に一度開催される美牛コンテスト(全国乳牛共進会)にこれまで計3回出品することができました。そこで、第12部の一等7席でした。僕が一番欲しかった、生乳生産量がこのクラスで一番多かったという賞をいただきました。日本で一番生産量が多かったということですから、これで僕はこの世界は極めたかなと、勝手に思っています。



3つ目のオンリーワンは「循環型農業」を目指すこと
 3つ目としては、循環型農業を目指すということです。先ずは、うちのお店で提供するソフトクリームのコーンのバリです。これを牛が好んで食べてくれます。そこから搾った生乳を使用したソフトクリームを提供するという循環です。次に、稲作農家と連携し、飼料用米をサイレージにしたソフトグレーンサイレージという餌を給与しています。更には、タケノコの水煮を加工するメーカーと連携し、タケノコの皮と先ほど説明したコーンのバリを一緒にしたサイレージを調製してみました。すると大正解で、飼料成分としても遜色なかったわけです。また、フルーツの残渣、特にパイナップルの皮や芯の部分です。他にもにんじんの皮、ごぼうの皮、パイナップルジュースの絞りかす、酒粕などが、実はたくさん地元にあるということがわかったのです。特に、愛知県の西三河は醸造文化が栄えており、酒みりん醤油、みそなどが製造販売されています。しかし、消費期限切れとなると、ほぼ産業廃棄物になっていましたが、これらを牛がとてもうまく利用してくれるということがわかって、Win-Winの関係を作ることができました。


 そのほか、稲作農家と連携し、堆肥を使用したお米を「有機米」として付加価値販売を行っております。そして、近隣の市民農園にもうちの堆肥を使用してもらい、野菜や果物が生産されます。また、西尾市のゴミの処分場では、市民から持ち込まれる剪定した木のチップを化石燃料を使って毎日燃やして処分していました。僕はそれを見て、うちに持ってきてくれれば、これを堆肥に混ぜて良質の発酵の水分調整材として使えるということを提案し、了解いただきました。今では、地域の農家さんたちに、良質な発酵肥料として還元できる上、処分場としてもコスト削減となり、うちも堆肥の水分調整剤の購入費用が抑えられることで、お互いにWin-Winの関係ができています。
 また、岐阜県にあるバイオガスプラントで発生する木材チップの焼却灰を牛の寝床に敷いています。ふかふかですし、全く菌がいない上、無機質になるということで、とても衛生的です。



「価値・感動・感謝」を伝える「合同会社酪」
一方、酪農家2戸で立ち上げた合同会社酪にも、「価値・感動・感謝」という理念があります。酪農は、「汚い・臭い・きつい」3Kと言われていますが、それを「価値・感動・感謝」に変えたいなということで、合同会社酪を設立しました。
 最近、名古屋市の錦1丁目に酪という小さなワインの店を始めました。この店のチーズは全量、私たちの牧場の生乳を使用して作ります。一番の売りは、消費者に一番近いところに居れることですね。消費者に一番近いという利点をいかに活かしてやるか。それは新鮮な牛乳をいかに早く加工できるかどうか、そこからくるおいしさはもう何ものにも代えがたい。そういうことでお店を始めました。



地域と手を組んで、新たな価値を生み出す!「生命産業」としての魅力を伝える!
 まとめになります。酪農は、体験学習などを通じて食と命の大切さを伝えることができる。お子さんにもお産の現場を見せるだけで命が伝わっていく。もう生まれたら一生懸命子牛が立とうとする。それにお母さんは一生懸子牛の体をなめることによって子牛がすごく元気になる。そういうことを見してやることがね、すごく命と食の命の教育になるつくづく感じます。
 牛乳は生鮮食品である、新鮮からくる美味しさね。そのおいしさ、これになるべく近づけていきたいのっていうのは我々の思いです。
 そして、地域と手を組んで、新たな価値を生み出すことができるということですね。僕はもう地域の人と繋がることが、小笠原牧場がここにある意義になるわけですよね。活動を通じて消費者、いや、地域の人たちに酪農を知ってもらい、酪農の要はファンづくりをしたいなっていうことですね。牛の力は、人間が利用できないものを利用して人間が利用できるものに変えてくれる。この力をね、牛ってすごいでしょっていうことを、皆さんに伝えています。
 もう1つは牛のことです。酪農だけが生乳生産と妊娠とを同時におこないますが、これが一番難しいとこでもあり、すごいです。そこから、命っていうのは、血が通って、あったかくて、それを、ぜひ知ってもらえたい。人間に牛を通して、そういう触れる機会を伝えることが、酪農の、非常に価値のあるところです。
 つまり酪農は「生命産業」ですよね。特に我々、会社組織ですので、若者に選ばれる魅力ある産業でないと、もう幅が広がらない。我々みたいな会社組織は、他の産業、他のところから酪農に魅力があって飛び込んで来てくれる、そういう人が受け皿になっていかないと、酪農という産業はこの地域ではなかなか発展しにくい。
 そういえば、私は娘に対して一度も継いでくれとは今まで言ってこなかった。だから娘も全然違う職業に就きました。しかし、突然、彼氏と一緒に酪農をやるって言ってくれたので、今から僕はもう引退できないな。一生仕事しなきゃいかんかなと思っています。
 ということで、僕の取り組みが少しでも皆さんに参考にしていただければなと思います。