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ミルク1万年の会 2024交流会~私が考える酪農とミルクの未来~

古い牛乳屋の新しいビジネスモデル
販売店 武蔵野デーリー・木村充慶さん(東京都武蔵野市)

武蔵野デーリー・クラフトミルクスタンド
 「武蔵野デーリー・クラフトミルクスタンド」という牛乳ショップを、東京・吉祥寺の割と駅に近いところでやっています。この場所は僕の実家で、昔から両親が住んでいて牛乳販売店をやっていました。現在は金、土、日しか営業してないんですけど、ほぼ牛乳ばかり売っています。売っている牛乳は、私が訪ねた全国の160ヶ所ぐらいの牧場から毎月セレクトさせていただいています。
 こだわりを持っているいろんな牧場の牛乳で、ポイントは、「シングルオリジン」っていうことで、わかりやすく言えば、その牧場だけの単一の牛乳ということです。
 全国47都道府県、2ヶ所ぐらいを一通り回りました。パッケージとかも魅力的なところが多いんですけど、基本的にはどういう育て方をしているのかを大切にして、牧場の物語を感じて欲しいと思っています。お店で売れているのは「飲み比べ」がほぼ半数近くですごく人気があります。



100年前から続いている牛乳販売店が前身!
 これまではミルクスタンドだったんですけど、最近は小さい小さい規模ですが乳業メーカーみたいなことをやり始めました。休憩中に飲んでいただいた牛乳は、東京23区で最後の小泉牧場さんの牛乳の試飲品で1~2ヶ月ぐらい後に販売する準備をしています。こんな牛乳の事業を今後できないかな?と考えています。
 もともと僕は広告会社に入って、今でもそこで働いているんですけど、ずっと音楽畑で音楽フェスの立ち上げをやったりとか、企業のプロモーションのお手伝いをやったり、NHKに出向したり、いろんな経験してきました。東日本大震災以降はずっと復興支援とかやってきて、最近ではサステナビリティ経営みたいなことをやっています。社団法人とかいろんな領域に跨りながら、マクロ的な視点で大企業や国の仕事をやってきたのが僕のバックグラウンドです。酪農とか乳業の業界はまだそんなに経験がないんですけど、これまでの経験を活かしながら、やっていけるのではないかと思っています。
 他の仕事の関係なども活かし、月の多分半分ぐらい国内たまに海外行ったりして、ひたすらGoogleマップで探して牧場めぐりをライフワーク的にやってきました。何故、牧場めぐりをしたかったのかということですが・・・。100年ぐらい前に祖父が牛乳屋をスタートしました。詳しいところまではまだ調べきっていませんが、聞くところによると、祖父は身体が弱く戦争に行けなくて、健康に良い牛乳を飲むために新潟から東京に来たそうです。東京では、銀座にあった近藤乳業で働いていたようで、その娘さんと結婚したら、吉祥寺行って牛乳屋をやれということになりました。吉祥寺は当時何もなく一番初めは牧場もやっていたという話です。基本的には牛乳販売業で、父親の代では自販機をたくさん設置して牛乳を売るようなことも始めました。当時はとても珍しかったようで、自販機メーカーさんや全酪さんと一緒に都内で一番初めに導入したという話です。

クラフトミルクに魅せられて
 そういう牛乳販売店の家庭に育って、家族はみんな牛乳好きなんですが、僕は牛乳嫌いで学校でもずっと残して、結局20代まで全く牛乳を飲まない生活をしていました。ところが、20代後半ぐらいに牛乳が飲めるようになりました。父親の勧めで、旭川の斎藤牧場に行った時、2、3日ぐらい牧場作業を手伝わせてもらったのがすごくいい体験で、仕事した後に飲ませていただいた牛乳が、すごく美味しいというほどではなかったんですけど普通に抵抗なく飲めて、それに自分でもびっくりしたんです。スーパーで買う牛乳は正直飲めなかったんです。それで、どういう牛乳なら飲めるんだろうと考えるようになりました。どうも、こだわっている牧場ごとの牛乳であれば飲めると気づいて。
 そうした中で大きなきっかけになったのが、「ありがとう牧場」の吉川さんという方と話した時です。それまで、放牧は「家族経営で小規模なのでミルクの生産量が少ないから経営が厳しい」と良く言われていて、そうなのかなと思っていました。しかし、放牧の牧場にもいろんなやり方があって、ちゃんと経済的にもやれる方法があるのだな?と、吉川さんから教えていただきました。改めて面白いなと思って、同じ放牧の牧場でも、スタイルを突き詰める人もいれば、ウンチばっかり見せてくれる人とか、1ヶ所も同じ牧場はない。
 これまで広告の仕事をやっていたので、ビジネス的に言えば、それぞれの牛乳を味だけではなく、牧場のストーリーとセットで打ち出せるのではないかと思い始めました。ちょうどその頃、牛乳をひたすらECサイトで買いまくり、商品の印象を1個1個、書き出してみたのですが、味の表現が毎回同じようになっていて、自分の中で腑に落ちなかったのです。しかし、実際に自分で行った牧場の場合は、こういう牛の育て方をして、こういう牧場主がいてという風に、ちゃんと他の牧場と違った物語が描けるという感じが頭の中にあって、これが大切だな?と思いました。



ミルクスタンドの立ち上げ
 こうした発想にはもともと伏線があります。実は、学生の時にイギリスに留学していた時期があって、既にイギリスではオーガニックの牛乳が結構あって、それをクラフトミルクと言って牧場で販売していました。そうした経験もあって、日本でやるなら、放牧とかクラフトミルクとかであれば、何かビジネス的なことできるのではないかと、20代後半から30代ぐらいに思っていたんです。
 そうした矢先、父親の高齢となって、76歳までずっとトラックを運転して牛乳配達をしていたのですが、ある時交通事故を起こしてしまいました。それを機会に、父親にもう牛乳販売の仕事を辞めさせようとしたのですが、50年近く土日も関係なく正月から年末の31日まで牛乳販売で働いていた人なので、いまさら辞めろということにならない訳です。そこで、ただ辞めろというのではなく、牛乳を入れた冷蔵庫があった場所をミルクスタンドの形にして働けるようにすれば運転しなくていいでしょうということと、父親も若い時からバイクで全国の牧場を回っていて牧場の牛乳に関心があったので、それもあってクラフトミルクを販売するということで現在のお店を立ち上げました。

外圧に影響されない新しい乳文化を作れないか
 お店自体は2021年に開始したのですが、そうした頃に、酪農業界が本当に大変な状況で、生乳の廃棄問題や生乳流通のインアウト問題など、ビジネス的にマジでやばいなって思いました。もちろん、その背景はシステム上の構造的な問題だからそんな簡単に解決しないだろうっていうのは、自分も社会課題系の復興とか防災とかやってきたので分かってはいたし、勉強すればするほど、季節ごとに需給調整などを三位一体で取り組んでいて絶妙なバランスで成り立っているんだなっていうのがあって、しかしそれでも、コロナとかウクライナの問題でそれが簡単に壊れてしまう。だから、単純に牛乳飲みましょうという話ではなく、外圧があってもバランスが崩れないないような根の張った乳文化みたいものを作ることが必要ではないかと思いました。インドに行った時に知ったのですが、インドは世界一牛乳を生産し消費しているのですが、いま一番飲んでいるのは「チャイ」なんですよ。チャイってどれくらいの歴史なのかなっていうとせいぜい300年くらいで、イギリスの植民地時代に高級な茶葉をヨーロッパに輸出し残りの品質の悪い茶葉をインド国内で販売するために作られた新しい乳文化で、それが主流になっているんです。だから日本でも、何かアイディアで乳文化的なものを作ることができないかなと思うんです。

CRAFT MILK LABで目指したいこと
 そこで考えたのが、ミルクスタンドをやるだけでなく、使ってない倉庫をリノベーションしてCRAFT MILK LABを作りました。これを使って、商品開発をみんなとしながら、クラフトミルクだけではなく、ヨーグルトやソフトクリームを作ったりするような場所にしたいと思っています。
 今後は、国内外でいろいろ乳文化を学び、少し妄想的ではありますが、独自の乳文化作りを目指したい。ただ、コーヒー業態でサードウェーブの次の動きとして出てきているオーバービューとかあって、スタイリッシュで社会的課題を真正面から掲げた動きとして注目されていますが、自分としては、そこまでは考えていなくて、もう少し地に足のついた、小さな地域で循環できるようなブランドができないか、小さいからこそできることはあるのではないかと思っています。
 それでいま、CRAFT MILK’s PROJECTをやっていて、小さな乳業メーカーとして、酪農家と一緒に小さな組合を作るとか、6次化から一緒にやるとか、クラフトミルクを全部クラファンでやるとか、単にお金を集めるのではなくお金を集めながら仲間も集めるとか、これまでにない新しい仕組みで作れないかと思っています。
目指すところは、まずは東京中心に、日常の中に溶け込みながらサステナブルな世界観を出したい。
 放牧のミルクが動機でしたが、東京の牧場でも魅力的なところがたくさんあって、そこを地域の人に知ってもらう。食育的に観光牧場には行くけど、家に戻ったらスーパーで牛乳買うというのではなく、練馬に牧場があるのだから練馬の牛乳を飲むという人が広がっていくような流れを作れないかなと思っています。